1. 1)「創造性」 を研究対象としている日本創造学会では,全学会員に 「創造性とは何か」 の定義づけを求め,83の定義すべてを併記して紹介しており,その定義に幅があることを示している.本稿では会員の定義を参考に日本創造学会が公開している 「創造性」 に関する定義,「創造とは,人が異質な情報群を組み合わせ統合して問題を解決し,社会あるいは個人レベルで新しい価値を生むこと」 に基づくこととする.http://www.japancreativity.jp/definition.html(参照日2015年1月10日)
2. 2) 都市経済学の分野においても,創造によって経済を成長させる新しい知的労働者層が 「クリエイティブ・クラス」 と呼ばれるなど,クリエイティビティは今や産業と結びついて語られてもいる.「クリエイティブ・クラス」 については次を参照のこと.Richard,F.(2003).The Rise of the Creative Class. Basic Books.(井口典夫訳.クリエイティブ資本論.ダイヤモンド社.2008.)
3. 3) 身体表現の分野は,「表現あそび(保育者養成機関においては 「身体表現」 が多い」(幼稚園・保育所),「表現運動」(小学校),「ダンス」(中学校・高等学校)などそれぞれの場において異なる名称で呼ばれている.本稿ではこれら全体を包括する用語として 「身体表現教育」 という言葉を用いることとする.
4. 4) 各成長段階における身体表現教育の実態調査は,近年では全国を視野にいれた大規模調査が見当たらないのが大きな問題である.そこで実践報告や,限定的に行われた実態調査から過去および現況を推察してみると,①幼稚園,保育所に関しては管見の限り近年の大規模調査は見当たらない.本山(2009)は子どもの身体表現の現状を,「自由な表現」 を獲得することが重要であるにも関わらず,実際には 「定型的な表現」 を目にすることが多いと指摘している.(本山益子.子どもの身体表現の発達と特性.西洋子,本山益子,吉川京子(2009).子ども・からだ・表現(改訂2版).市村出版.pp.18-19.),②小学校:管見の限り近年の大規模調査が見当たらず,1990年代の調査では授業の実施率が極端に低いことを報告した徳島県を対象に行われた安藤・中村の実態調査(1994),また表現運動がほとんど運動会における作品発表で消化し,授業での取り組みが少ないことを明らかにした吉川の実態調査報告(1997)がある.(安藤幸・中村久子.(1994).表現運動指導の現状と問題点−四国地区小学校教員を対象として−.鳴門教育大学研究紀要.9.1-14.および吉川京子.(1997).小学校における表現運動指導の現状と課題.金沢大学教育学部紀要.46.95-104.),③中学校については,1990年代半ばに中村・安藤(1994)によって行われた中四国中学校におけるダンスについての実態調査(徳島:51校,香川98校,愛媛,147校,高知40校)では,「ダンス指導がカリキュラム上にどのように組み込まれているか」 という質問に対し 「運動会」 が61%と最も高く,対して 「授業」 は52.7%であり(p.62),この時の提言として教員向けの講習会の内容を 「指導法」 に重点をおく方向に改める必要があると結んでいる(p.64).(中村久子,安藤幸.(1994).ダンス指導の現状と問題点−四国地区中学校教員を対象として−.徳島大学総合科学 人間科学研究.2.45-65.)一方で,より近年の中村(2014)による実態調査によると,東京都公立中学校全600余校の保健体育科教員を対象に平成19年度・21年度・23年度・24年度の複数年にわたって調査した結果,男子に対するダンス授業の実施率はダンスの完全必修化の平成24年度に急増し,女子99.6%,男子98.8%という高い実施率となったことを報告している.(中村恭子.(2014).中学校の実態調査:ダンス男女必修化に伴う変容と課題.多様性の捉え方をめぐって:ダンス授業におけるジェンダーを考える.猪崎弥生,酒向治子,米谷淳編著.55-71.)このデータからは,平成24年度の中学校におけるダンス男女完全必修化は,ダンスの授業での履修率の引き上げに効果を挙げていることが伺える.しかし,中村の平成19年度と平成21年度の学習内容に関する東京都公立中学校に対する実態調査(2010)では,現代的なリズムのダンスの授業内容としてステップの習得31%,既成作品の習得26%,ビデオの模倣26%と既成の運動習得学習が中心となっており,村田・高橋(2009)らが述べる本来あるべき探究型の学習内容になっていない現状を報告している.(中村恭子.(2010).中学校体育全領域必修化に伴うダンス授業の変容 −東京都立中学校の実態調査から−.舞踊教育学研究.12.56-59.および村田芳子,高橋和子.(2009).新学習指導要領に対応した表現運動・ダンスの授業.女子体育.51(7,8)6-7.),④高等学校:関東の公立高等学校603校におけるダンスについて実態調査(中村2002)によると,平成12年度のダンス授業実施率は実施校273校(65.0%),非実施校147校(35.0%),種目の採択率は 「創作ダンス」 がもっとも多いという結果であった.(中村恭子,武井正子,浦井孝夫.(2002).高等学校におけるダンス授業のカリキュラムに関する研究−実態調査にもとづいて−.順天堂大学スポーツ健康科学研究.6.94-105.)しかし今後の採択意向率については 「創作ダンス」 は 「現代的なリズムのダンス」 より低く,「創作ダンス」 の指導法の難しさから敬遠されることが予想されるとしている.一部のデータから全国的な傾向を見ることは困難であるものの,これらの実態調査から伺えるのは,学校教育では身体表現教育を運動会等のイベントにおける既成作品を踊ることで済ませている場合も少なくないこと,また指導の難しさから創造的な身体表現教育は避けられる傾向にあるということであろう.
5. 5) 森清,阿部正臣,梶原洋子,〆木一郎.(1981).小学校助教諭の体力・技能と教科体育への意識(第5報―表現運動の指導の実態とその意識を中心として―.文教大学教育学部紀要.53(10).12-17.および安藤幸・岡田晶子(2003).徳島県における小学校舞踊教育の現状と問題点−1991年と2001年の表現運動指導の比較を通して−.鳴門教育大学実技教育研究.13.53-65.