内視鏡的除去が有効であった鉄徐放錠過量内服の1例(Effectiveness of endoscopy in managing sustained iron release preparation overdose)

Abstract

要旨　鉄剤は鉄欠乏貧血などでしばしば処方されるが，自傷目的に過量内服されることがある。服薬量が少なくても重篤化する場合があり症例の蓄積が必要である。今回，硫化鉄徐放錠を過量服薬したが内視鏡的除去により重症化を防ぎえたと考えられる症例を経験したので報告する。症例は20歳代の女性。近医で処方されていた硫化鉄徐放錠22錠（鉄2,310mg）を一気に服用した。約4時間後に嘔気と上腹部痛を呈し救急車で来院した。鉄摂取量は50mg/kgで，搬入時の血清鉄濃度（以下，SIC）は386µg/dLと軽度高値を示した。救急外来で撮像した腹部単純レントゲン写真で胃内に多数の錠剤を認めたため，内視鏡的除去後にキレート剤を投与した。SICは経時的に低下し第2病日退院した。鉄中毒では最大SICや鉄摂取量が中毒症状に関連するとされ，服薬後4～6時間程度の最大SICを確認する必要がある。SICの測定が不可能な状況では，鉄摂取量や，意識，循環，消化器症状などの臨床症状，胃内の薬剤残存状況などから重症度を判断する。鉄の排泄経路は限られており，重篤となる可能性がある場合には積極的に消化管除染やキレートを行う必要がある。徐放性鉄剤は服薬後6～12時間で最大SICに達する。本症例は内服から5時間後の腹部単純レントゲン写真で未吸収の薬剤が胃内に残存しており，内視鏡的除去を行うことで以後の血中濃度上昇を抑え，重症化を防いだと考える。