HIT（heparin–induced thrombocytopenia）により両側副腎出血を来し副腎機能不全を呈した墜落外傷の1例(A case of fall trauma with bilateral adrenal hemorrhage and adrenal insufficiency due to HIT (heparin–induced thrombocytopenia))

Abstract

要旨　HIT（heparin–induced thrombocytopenia）により両側副腎出血，副腎機能不全を呈した報告はわが国では1例のみである。今回HITを発症し両側副腎出血により副腎機能不全を呈した外傷の1例を経験したので報告する。症例は50歳代の女性。墜落により胸腰椎，骨盤，下肢の骨折を受傷，動脈塞栓術と創外固定術を行い入院した。入院後血小板数は減少したが数日で増加傾向にあった。第7病日に胸腰椎，骨盤に対して内固定術を行い，第10病日より血栓形成の予防目的にヘパリンを持続で開始した。第12病日に血小板数が50%以上減少したためHITを疑い，入院時から使用していた動脈圧ライン内に添加したヘパリンとヘパリンの持続投与を中止した。その後血小板数は増加し，HIT抗体が陽性でありHITと診断した。第13病日に施行した造影CTで両側副腎出血と右外腸骨静脈血栓を認めた。副腎出血は経過観察とし，外腸骨静脈血栓に対しては下大静脈フィルターを留置した。第15病日，迅速ACTH（adrenocorticotropin hormone）負荷試験により副腎機能不全と診断しステロイドを開始し，反応は良好であった。その後副腎出血の増大はなく血栓も縮小傾向となり第42病日，他院に転院した。重症外傷症例では，HITの発症を考慮する必要があり，さらに両側副腎出血，副腎機能不全の合併も念頭におくべきである。