Affiliation:
1. 信州大学医学部救急集中治療医学教室(Department of Emergency and Critical Care Medicine, Shinshu University School of Medicine)
Abstract
要旨 鋭的胸部外傷に伴う心嚢気腫は稀であるが,閉塞性ショックを生じうる緊急性の高い病態である。症例は80歳の男性。自殺企図による頸部刺創,胸部刺創でドクターヘリが要請された。病院前医療で気管損傷,左開放性血気胸に対して,気管挿管,刺創部の3点テーピング,左胸腔ドレナージを施行し当院へ搬送となった。来院後に血圧が低下し超音波検査で心嚢気腫による心タンポナーデを来していると考え,刺創部より用指的に緊急脱気を行い,速やかに血圧の上昇を得た。同日に永久気管孔を作成した。その後,心電図上ST上昇が見られたが,心筋逸脱酵素の上昇はなく冠動脈造影では冠動脈損傷などの所見はなかった。第12病日に胸腔ドレーンを抜去し,第21病日に耳鼻咽喉科へ転科し,第39病日に独歩で自宅退院した。本症例では,鋭的胸部外傷で来院後,超音波検査で心嚢気腫を疑い,心タンポナーデを来したが速やかに用指的に解除できたことが救命につながったと考えられる。