急速に進行した気道閉塞に対して予防的に気管挿管を行ったCOVID–19合併外傷性咽頭後間隙血腫症例(A case of traumatic retropharyngeal hematoma in a patient with COVID–19 who underwent prophylactic tracheal intubation for rapidly progressing airway obstruction)

Abstract

要旨　症例は45歳の男性。作業中に8mの高さから転落し，救急搬送された。全身CT検査で，第6，7頸椎棘突起骨折，第2–4胸椎棘突起骨折，第4，5胸椎破裂骨折，両側多発肋骨骨折が見られ，さらに偶発的にSARS–CoV–2抗原陽性が見つかった。神経損傷評価目的に受傷6時間後に行ったMRI検査で，第1–5頸椎椎体前面に血腫があり，咽頭後間隙血腫と判断した。呼吸困難はないものの，来院時のCT検査では見られなかった血腫が短時間で出現したことから，気道確保が必要と考えた。血腫による気道狭窄と頸椎保護が必要であることから気道確保困難が予測されたが，CT画像とMRI画像を基に気道を詳細に評価し，気管挿管可能と判断した。エアロゾル飛散に留意し，ビデオ喉頭鏡を用いた迅速導入で気管挿管を行った。1度の手技で気管挿管は成功した。その後，集中治療，胸椎破裂骨折に対する胸椎後方固定術，リハビリテーションを経て，独歩退院した。新型コロナウイルス感染症（以下，COVID–19）流行以降，エアロゾルに配慮した気道確保戦略が必要となっており，気道管理に対するリスクはより高まっている。本症例のようなCOVID–19を合併した気道確保困難症例では，患者の安全と医療者のエアロゾル暴露回避を両立させるため，感染防止策を十分に講じたうえで，気道確保困難に対する事前の気道評価と準備，症例に応じた的確な対応が必要である。