Affiliation:
1. 国立病院機構 岩国医療センター救急科(Emergency Department, National Hospital Organization Iwakuni Clinical Center)
Abstract
要旨症例は20歳代女性,妊娠7か月の妊婦。感冒様症状を発症し,SARS–Cov–2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2),インフルエンザ抗原迅速検査は陰性であったが,その後急速に悪化し当院に紹介となった。来院時は意識障害,発熱,頻脈,頻呼吸を認めショック状態であった。子宮内の胎児は死亡した状態であった。血液検査,画像検査から肺炎による敗血症性ショックと診断し,メロペネムの投与,人工呼吸管理を開始してICUに入室した。細胞外液輸液,輸血,カテコラミン投与など集学的治療を行ったが,呼吸,循環は安定せず,症状増悪から約7時間で死亡した。原因不明のため家族の承諾を得て病理解剖を実施した。組織所見では肺,肝臓,腎臓に明らかな感染所見は認めないが,胎盤の絨毛間に好中球の集積を認めた。絨毛炎と臨床経過から妊娠オウム病が疑われ遺伝子検査を行ったところ,胎盤,肺,肝臓,脾臓からChlamydia psittaciの遺伝子が検出され,妊娠オウム病と診断した。妊娠オウム病は急性期の診断が困難であるが,急速に悪化し致死的な経過をたどることがある。妊婦に感冒様症状を認めた場合には妊娠オウム病を念頭に置いて診療にあたる必要がある。また,妊産婦の予期せぬ死亡に対しては,家族に丁寧な説明を行ったうえで病理解剖を行い,原因を追究することが勧められる。