Affiliation:
1. 日本赤十字社和歌山医療センター救急科・集中治療部(室谷知孝は,現在,兵庫県災害医療センター救急科に在籍している。)(Department of Emergency Medicine and Intensive Care, Japanese Red Cross Wakayama Medical Center)
Abstract
要旨今回我々は,プロテインC欠損症に伴う上腸間膜静脈血栓症という希少な1例を経験したので報告する。症例は58歳の男性で,既往症に下肢深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症があったためリバロキサバンを服用していた。ところが白内障の手術時に休薬し,その後も5か月間にわたり中止されたままであった。当院受診の2日前より上腹部痛および背部痛を自覚し,その後増悪したため前医を受診した。その結果,腹部造影CT検査にて門脈血栓症を認めたため当院救急搬送となった。腹部は左側を中心に全体的な自発痛と圧痛,また一部には筋性防御も認めた。腹部造影CT検査では,小腸の広範に渡る浮腫性壁肥厚と,上腸間膜静脈に血栓を示唆するcentral lucent signを認めた。緊急手術も考慮したが,術後の短腸症候群が懸念された。またCTにて門脈の完全閉塞はなく,側副血行路も形成されていた。浮腫腸管についても造影効果はあると判断した。これらの理由から,まずはヘパリンによる保存的治療を選択したが,結果的に治療完遂できた。その後の遺伝子解析にて先天性プロテインC欠損症と診断した。我々はこの希少な1例に対し,手術は行わず保存的治療のみで治療できた。先天性の血栓傾向が背景にあり,また腹膜刺激兆候を伴っており腸管壊死の可能性の示唆されるような上腸間膜静脈血栓症であっても,抗凝固薬による保存的加療のみで改善する場合もあることが示唆された。