Affiliation:
1. 山口大学医学部附属病院先進救急医療センター(Advanced Medical Emergency and Critical Care Center, Yamaguchi University Hospital)
Abstract
要旨 症例は37歳の男性。包丁を用いた自傷行為で四肢頸部を切りつけ受傷した。左上腕動脈断裂,正中神経断裂を含めた複数か所の四肢切創に伴う出血性ショックの状態で搬送された。来院後まもなく心停止となったが,心肺蘇生(low flow time 35分)により心拍再開した。心拍再開時点では動脈血のpH 6.557,フィブリノゲン値55mg/dL,深部体温30.2℃と死の三徴が揃っており循環動態も不安定であった。新鮮凍結血漿による凝固因子の補充を行ったが,新鮮凍結血漿投与下でも進行する凝固障害を認めており,フィブリノゲン濃縮製剤併用でのdamage control resuscitation(DCR)を行ったところ,フィブリノゲン濃縮製剤投与後より循環動態は安定し,死の三徴からの離脱が可能となった。来院約6.5時間後から左上肢の血行再建術を施行し,その後に集中治療管理を行った。心停止に伴う脳機能への影響が考えられたが,適切な全身管理により良好な神経学的転帰が得られた。左上肢についても上腕動脈断裂,正中神経断裂,上腕二頭筋断裂などの損傷を認めていたが,複数回の手術の結果,最終的に軽度の運動障害,感覚障害を残す程度まで改善した。本症例ではDCRにおける凝固障害改善にフィブリノゲン濃縮製剤が非常に有用であり,適切なダメージコントロール戦略により,救命のみならず社会復帰もできたので報告する。